旧佐藤邸(現・シメオン黙想の家)
2025年10月26日
今回は、滋賀県近江八幡市にある旧佐藤久勝邸をご紹介します。
1931年(昭和6年)に建てられた、ヴォーリズ建築事務所の建築家・佐藤久勝さんの自邸です。
現在は修復され、「シメオン黙想の家」として使われています。
ヴォーリズ建築事務所の作品として残る住宅ですが、この家で設計者となったのは佐藤さん自身。普段は事務所の一員として建築を手掛けていた設計者が、自分と家族のためにつくった住宅です。
佐藤久勝さんは1911年(明治44年)にヴォーリズ合名会社へ入り、大丸心斎橋店などの設計に携わりました。そして1931年、自ら暮らすためにつくったのがこの住宅です。
白い外壁に洋瓦の屋根。外観には丸窓や出窓、煙突などがあり、見る方向によって形が変わります。そして玄関へ近づくと、壁面にはタイル。丸窓にはステンドグラス。
建物全体の形だけでなく、小さな範囲にも異なる素材や意匠が使われています。
さらに室内へ入っても、それは続きます。
室内には洋風の部屋だけでなく、和室もあります。けれど、洋室と和室を分けただけの和洋折衷住宅でもありません。
ダイニングにはイスラム風の意匠。和室の天袋にも装飾があります。壁面にはタイルが使われ、丸太の断面をそのまま意匠として取り入れた部分もあります。
さらに奥にある浴室にも、特徴的な意匠が残されています。
床に使われているのは、市松模様に配置されたタイルです。
住宅の中でも実用的な場所である浴室まで、単純な仕上げにはなっていません。
そして、この浴室は佐藤久勝さんが関わったもう一つの建物へとつながります。
大丸ヴィラです。
京都にある大丸ヴィラは、1932年(昭和7年)に竣工したヴォーリズ建築事務所の住宅です。
英国のテューダー様式を基調とし、内部にはさまざまな意匠が取り入れられています。
この建物の設計に深く関わったのが佐藤久勝さんでした。
大丸ヴィラには、かつて市松模様のタイルを使った浴室がありましたが、後年の改修によって失われています。
その大丸ヴィラより先につくられた旧佐藤邸には、市松模様のタイルを使った浴室が残されています。
また、タイルや室内に取り入れられた異なる様式の装飾など、二つの住宅には重なるものを見ることができます。
旧佐藤邸を知ってから大丸ヴィラを見る。あるいは大丸ヴィラから佐藤久勝さんを知り、この家を見る。
離れた場所にある二つの住宅が、一人の設計者を通してつながります。
旧佐藤邸が完成したのは1931年。佐藤久勝さんはその翌年、1932年に亡くなりました。
大丸ヴィラが竣工したのも1932年です。
佐藤さんはその完成を見ることができませんでした。
佐藤久勝さんが亡くなったあとも住宅は残されました。
長い年月を経て、建物は現在の所有者であるアシュラムセンターへ引き継がれます。
長期間ほとんど手を入れられていなかった建物を、約1年かけて内外ともに修繕。
できるだけ当時の状態を保ちながら再生されました。
現在は「シメオン黙想の家」と名付けられ、祈りや黙想のための場所として使われています。
庭には現在の用途に合わせ、祈りと黙想のための「ラビリンス」もつくられています。
※建物に関する情報は、アシュラムセンター、滋賀県建築士会、日本建築家協会等の公開資料および建築を扱った番組資料などをもとに確認していますが、資料による表記や解釈の違い、その後の調査等により内容が変更されている場合があります。また、掲載写真は撮影当時のもので、現在の建物・内部・庭等とは異なる場合があります。
