旧栗盛吉蔵邸
2026年06月07日
今回は、奈良市高畑町にある旧栗盛吉蔵邸です。
掲載している写真は2026年5月に撮影したものです。
旧栗盛吉蔵邸は1930年頃に建てられた、画家・栗盛吉蔵の自宅兼アトリエです。
設計はヴォーリズ建築事務所によるもので、2007年に行われた調査で、ヴォーリズ事務所が作成した図面や仕様書、パースなどの資料の存在が確認され、ヴォーリズ建築であることが判明したそうです。
奈良県教育委員会による調査では、奈良市高畑町以外に県内のヴォーリズ建築は把握されておらず、現存する奈良県唯一のヴォーリズ建築とみられています。
建物は木造瓦葺2階建てで、外壁はモルタル仕上げです。
一見すると洋館というより和風建築に近い印象を受けますが、煙突や円窓などの意匠が随所に取り入れられています。
特に興味深いのは、この建物が奈良の町並みに溶け込むようにつくられている点です。
敷地は瓦を載せた築地塀で囲まれており、周囲の景観にもよくなじんでいます。
建築研究者の中には、この建物を「ヴォーリズらしくない奈良のためのヴォーリズ建築」と表現する人もいるそうです。
建物は北向きに配置されており、1階には広々としたアトリエが設けられています。
約3メートル四方の大きな窓から安定した光を取り入れるよう計画されており、画家の住まいらしい工夫が見られます。
また、各部屋には2か所ずつ出入口が設けられ、行き止まりなく家全体を回遊できる間取りになっています。
こうした合理的で快適な動線計画は、ヴォーリズ住宅にもよく見られる特徴の一つです。
外観では西洋風の暖炉の煙突がアクセントになっています。
一方で和室には書院風の円窓が設けられており、和と洋の要素が自然に共存しています。
旧栗盛吉蔵邸の西隣には洋画家・若山為三の旧居があり、さらに近くには志賀直哉旧居もあります。
当時の高畑町には画家や文化人が集まり、「高畑サロン」と呼ばれる文化的な交流の場が形成されていたそうです。
2025年には解体の危機も報じられましたが、その建築的価値を惜しむ声が上がり、現在は解体工事が見合わされています。
華やかな洋館というよりは、奈良の風景や住む人の仕事に寄り添うように計画された建物です。
同じヴォーリズ作品でも、関西学院や教会建築とはまた違った魅力を感じる一棟でした。
掲載している写真は2026年5月に撮影したものです。
現在とは建物の細部や周辺環境が異なっている可能性があります。
なお、本記事は公開されている情報や手元の写真をもとにまとめています。
内容に誤りや解釈を含む可能性がありますので、正確な情報については各種資料や公式発表をご確認ください。
